点滴時の事故は、しばしば悲惨な結果を招くことがある。中心静脈栄養(IVH)中の事故は死に直結することもあるため、細心の注意が払われてしかるべきだが、末梢点滴時の事故は、現場において軽視されがちであるというのが実情。しかし、とくに抗がん剤に多い起壊死性薬剤が過って血管外に漏出してしまうと、悲惨な皮膚障害を引き起こすことがある。薬剤が皮膚の下に入ると、周辺の組織が腐ってしまい、その部分の皮膚がなくなって潰瘍へと悪化。重症の場合には植皮術という外科手術の対象にまでなってしまう深刻な事故なのである。
末梢点滴時の血管外漏出事故を防ぐためには、治療する側が投与する抗がん剤の種類を十分に把握することも重要だが、他方、点滴時の患者のあり方にも目を向ける必要がある。患者は、点滴時に腕部や頚部、肩部を露出しなければならない。長時間に及ぶ点滴治療の場合、冷えることによって不快感を覚える患者も多い。一方で、医療機関側にとっては、患者側の不快感を解消することよりも点滴部位を直視下に置くことの方が優先される。こうした双方の意識格差から血管外漏出事故が起こることもある。患者側が勝手に点滴部位の上から布団を掛けてしまい、点滴針が外れて漏出を招くという事例がそれに当たる。
血管外漏出事故の防止には、いくつかの対策が必要とされているが、その中でも、患者側の不快感を解消しつつ、点滴部位も直視下に置くことを可能にする医療用具の開発は、目下の急務と言っても過言ではないのである。
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